書籍: 終わりなき愛

奇跡のコース 第二巻
―学習者のためのワークショップ/
 教師のためのマニュアル

著者名 ヘレン・シャックマン記
ウイリアム・セットフォード
ケネス・ワプニック 編
出版社名 ナチュラルスピリット
定 価 5,500円+税
出版年月日 2012年12月12日

訳者あとがき

本書は、A COURSE IN MIRACLES COMBINED VOLUMEの一部である、WORKBOOK FOR STUDENTS, MANUAL FOR TEACHERSを翻訳したものです。『奇跡のコース』第一巻として出版したものは、「テキスト」の部分で、教えの理論的側面を詳しく説明したものでした。それに対して、「ワークブック」は、「テキスト」で説明されている理論を基にした実践編であると言うことができるでしょう。言い方を換えれば、「テキスト」で敷衍されている原理原則を存在の内部で統合するにはどうすればよいかということを、練習問題を通して実現するように導いているのが本書であると言えます。ヘレン・シャックマンを通してこのメッセージを伝えてくれた存在は、最初に原理原則が説明されている「テキスト」を読んで、それから、「ワークブック」に取り組むのが望ましいと言っています。
 「ワークブック」は二部構成です。レッスン1からレッスン220がパートIで、一つ一つのレッスンで様々な練習問題が提示されます。これらの練習問題の目的は何かということに関して、序文の冒頭で次のように説明されています。

「テキスト」のような理論的基盤は、このワークブックでの練習を有意味なものにするための枠組みとして必要です。しかし、コースの目標を達成可能にするのは練習です。訓練されていないマインドは何も達成することはできません。「テキスト」が設定する道筋に従って考えることができるようにマインドを訓練することが、この「ワークブック」の目的です。

それでは、練習問題を通して訓練されていないマインドをどのように訓練するのでしょうか。これについても序文の中で、従来のものの見方を解除することであると明確に説明されています。パートIIの目的は従来のものの見方を解除した上で、真の知覚を獲得することにあります。そして、真の知覚を獲得するのがパートIIの目的として掲げられています。これについて、パートIIの冒頭で次のような説明がなされています。

今や言葉はほとんど何も意味しません。私たちは言葉を使いますが、ガイドとしてだけ使うのであって、今やそれに依存することはありません。というのは、今、私たちは真実だけを直接体験することを求めるからです。残っているレッスンは、私たちが苦痛の世界を後にして安らぎの中へと入る時への導入部分だけです。

このように「ワークブック」の流れを追っていくと、言葉を通して従来のものの見方を具体的に解除し、それから、言葉を超越して真実を直接的に体験するように導くという『奇跡のコース』の概要が見えてきます。

唐突に思われるかもしれませんが、ここで、私がこの一年体験してきた魂の旅を共有させてください。というのは、「ワークブック」の翻訳・校正をしながら、私個人の人生の中で、知覚の変容を経て真実を体験するという経過をたどってきたと強く感じるからです。
 2011年の12月、私は肝臓癌の末期にあることが判明しました。キャットスキャン、MRIなどの検査で分かったのですが、肝硬変から肝臓癌へと進み、肝臓の機能がほぼ停止状態になっていました。肝臓から血を循環させるために新たな静脈血管が形成され静脈瘤ができてしまったために、緊急措置が必要でした。静脈瘤が破裂すれば大量の出血が起こり、三十分以内に処置しなければ死亡するという状況でした。肝臓癌に放射線治療を施すためには、静脈瘤を抑止する必要がありその手術が行われました。妻のジャネットが私のサポーターとして必死に調べた結果明らかになったことは、現代医学の最先端の技術を使っても、末期の肝臓癌患者の平均余命は一ヵ月から二ヵ月であるということでした。
 こういう状況の中で、私はガイドさんに祈りました。「このことに関して、私を含めたすべての人にとっての最善がなされますように」と祈ったのです。私はガイドさんと呼んでいますが、『奇跡のコース』の用語で言えば、「聖霊」になるかと思います。「聖霊」とは、地上に生きる人間と父であり母である神との間に立って、コミュニケーションを可能にしてくれる存在です。「聖霊」は人間が体験する様々な感情、歪曲された知覚がどのようなものであるかを熟知しており、それを否定する代わりに活用することによって、人間が幻想から目を覚まし実在の世界に至る道を歩み始めるように導く存在です。
 「聖霊」は私の人生のパートナーであるジャネットを介して、現代の最先端の医療でも治癒不可能に近いとされている末期の肝臓癌を治すことができる医師へと私を導いてくれたのでした。その治療を受けて約十日間が経過した時点でペットスキャン(身体全体をチェックして癌があるかどうかをチェックできる最新の検査方法)で調べたところ、癌は一切検知されなかったのです。
 それが2012年の1月半ばに起こったのですが、残る問題は肝硬変です。肝硬変は簡単に言うならば、肝臓の細胞が硬化していずれは肝臓の機能が停止するという致命的な病気です。ジャネットが見つけた医師は肝硬変の患者が治癒した症例をたくさん体験していました。その薬を飲んで治療を受けながら、イギリスの長女の家に滞在していたのですが、2012年3月半ばに手術して問題を抑え込んでいたはずの静脈瘤が破裂して、約1リットルの血を吐きました。
 長女の家から車で十五分ほどの場所に、この問題に対処できる病院があり、救急車に乗せられて集中治療室に入ったのです。私はそれを聞いていなかったのですが、集中治療室に詰めていた担当医師は私を見て「これは難しい」、つまり「助からない」と妻のジャネットに言ったそうです。
 しかし、輸血は成功してそれから約二ヵ月間、五回の手術を受け、入院生活を送ったのでした。その間にも、「聖霊」から、「これはあなたがあらかじめ選んできたことなのですよ。あなたがこの人生での目的を果たすためにこれを学びの機会と考えてください」というコミュニケーションを受けていました。この言葉は私の支えになっていました。
 それは頭では分かっていても、何とも表現しようのない疲労感、倦怠感、食欲の喪失の真っただ中にいると希望を見失いそうでした。これほどまでして生きる必要があるのかとさえ思いました。そんな中で思いました。「仮にこれで肉体を離れてあの世に行くことになったとして、私がもっとも切実に望むことは何だろうか」。それはゆるしでした。眠れない夜が続きましたが、そんな時、私はこの人生に生まれて物心ついてからつながりがあった一人ひとりのことを思い出しました。両親やパートナーのジャネット、子どもたちをはじめとして、私を愛してくれた人々、私が愛した人々、私に批判的であった人々、私を裏切った人々、喜びを共感した人々、一人ひとりを思い出し、その魂に向かって「どうぞゆるしてください」と語りかけている自分がいました。自分が犯した様々な間違いに関してゆるしを依頼しました。そして、数えきれない間違いを犯してきた自分をゆるしました。
 『奇跡のコース』とは二十五年ほど前に出合い、ゆるしの大切さをそれなりに理解し、十年以上にわたって「安らぎのワークショップ」をジャネットと共に行い、ゆるしの大切さを教え、学ぶことはしていたのです。しかし、今回の病気での体験は、それを遥かに超越した場所へと私を連れていってくれたようでした。すべてを受け容れる、愛の中で受け容れるプロセスを体験したようでした。病院で世話をしてくださる医師、看護師さん、食事をもってきてくれる人、ティータイムにお茶をもってきてくれる人、すべての人が美しいと思いました。愛しく感じられました。エレベーターで出会う人に対しても言い知れぬ親近感を抱き、「愛してるよ!」と声に出して言いたくなるほどでした。
 「私は神の安らぎを望みます」という『奇跡のコース』の言葉が、たとえようのない実在性をもって心に迫るのを感じました。他人と自分の間にあった壁が跡形もなく消え去って、相手のことを思いやり、自分の思いを、心を開いて語っている自分がいました。そして、他の人たちもまた同じように心を開いて思いを共有してくれるのでした。「ワークブック」の中に次のような言葉があります。

私は肉体ではありません。私は自由です。私には「神」が私に与えてくださった「声」が聞こえます。そして、私のマインドはこれだけに従います。

この病気を体験している最中に、人間は肉体として存在しているように見えるけれども、実際は、スピリットである。肉体は中立的な存在であってそれ自身は意志をもっていない、という言葉に出合いました。最初はよく理解できなかった言葉でしたが、徐々に、少しずつ分かってきたように感じています。これがそういうことかという感じです。何の痛みもなく、病院のベッドに横になっているとき、今自分は天国にいるんだと思ったりしました。
 このように高揚した気持ちが続く中で、突然、絶望感に襲われることもありました。そんな時、「聖霊」が言ったのです。「これからの一年間は選択をし続けることになりますよ。一瞬、一瞬が選択です」。それはつまり、私が生きる意志を持ち続ける選択をするか、それとも、死んでもよいと思う選択をするかということです。言い換えれば、愛を選択するか怖れを選択するかということになるでしょう。
 このあとがきの冒頭で述べたように、「ワークブック」はパートIで言葉を活用して知覚を変える方法を学び、パートIIでは言葉を超越して、真実そのものを直接的に体験するという構成になっています。謙虚な思いを込めて共有するならば、私はそのプロセスを、病気を通じて体験したのではないかと感じています。
 私はこの病気を通じて、様々な方々のサポートと愛をいただきました。家族、ヴァーチューズ・プロジェクトの世界中の仲間たち、ホワイトイーグルの叡智を学びヒーリングを行っている人たち、アルファマスタースクールの仲間たち、お会いしたこともない人たち、「聖霊」をはじめとする高次元の存在の方々が私のために祈ってくださいました。人は与えることによってはじめてそれを所有することができるというのも『奇跡のコース』の教えですが、次の言葉を思い出さざるを得ません。

私が癒されるとき、私だけが癒されるのではありません。

私が癒されれば、他の人も癒されるというのです。私が生きる選択をすれば、それは他の人たちの生きる選択にもつながるというのです。これは限りない力を与えてくれる言葉でした。
 最後になりましたが、本書を翻訳するにあたって次の方々に、言葉では言い尽くせないくらいお世話になりました。本書の出版を生涯の使命としてコミットしてくださっているナチュラルスピリット社長の今井博樹さん、編集者として私の翻訳した文章をしっかりとチェックし、整合性を持たせ、スムーズに意図が伝わるようにしてくださった畑中直子さん、文法を超越した英文の難解さのために理解に苦しむ私の質問に明確な答えを提示してくれたパートナーのジャネット、私が病気で苦しんでいる最中にも暖かい信頼のまなざしで見守り応援してくださった未来の読者の方々、心から、心から、感謝申し上げます。本書が一人でも多くの方々にとっての人生の指針になることを祈念しつつ。

 2012年11月1日
     大内 博
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