株式持合いとは(後編)
〜 その崩壊 〜

(1998.05.19)


株式持合いとは,企業が互いに株式の一部を所有し合うことで,経営者の保身などの目的のために日本独特の慣行として長きに渡って強化されてきました.しかし,バブル崩壊後の最近になって,株式持合いの解消が目立ってきました.何故そうした動きが出てきたのでしょう?

株式持合い比率の減少の傾向は,1980 年代半ばから続いているようですが,私が意識し始めたのは昨年(1997 年)からです.ビックリしたのは,1997.11.07 付の日本経済新聞のトップ記事で「横浜銀,上場保有株を売却 〜 持ち合い解消」と報じられたときでした.戦後の日本で急速に広まった株式持合いにおいて,中心的な役割を果たしてきたのは銀行でした.その銀行が,株式持合いを総て解消するというのです.
株式持合い解消に踏み切るのは,横浜銀行だけではありません.横浜銀行は,持合い以外のものも含めて簿価 6,000 億円(時価 6,800 億円?)の株式を 2〜3 年で売り切るようですが,日本全体では,今後,持合い解消が毎年 5 兆円程度出てくると見られているからです.

何故,ここに来て,株式持合いが崩れ出したのでしょう?実は,これはバブル崩壊と密接に関わりがあります.バブル崩壊がもたらした幾つかの要因が重なり合って,経営者を株式持合いへと駆り立てているのです.その要因としては,

  • 資金繰り悪化
  • 資産効率の悪さの顕在化
  • 持合い株式の株価下落による業績悪化・財務体質悪化
  • 経営の株主重視・資本効率重視への変化
    などがあります.以下でもう少し詳細にこれらを考察してみましょう.

    【資金繰り悪化】
    バブル崩壊により景気が長期間に渡って低迷し,資金繰りが逼迫する会社が多くなってきました.買掛金・支払手形の決済や短期借入金の返済のための資金手当てに窮した場合,一昔前なら,資産を担保に銀行に頼み込めば何とかなったでしょう.
    ところが,最近は,諸事情により銀行もむやみに貸し出しを増やせない状況です.いわゆる「貸し渋り」です.そうなると,会社の有力な選択肢は,資産を売却して現金化することです.金庫の中で眠っている持合い株式は,絶好の現金化材料となります.

    資金繰り悪化

    【資産効率の悪さの顕在化】
    日本の株式,特に上場株式など代表的なものは,一般に配当利回り(= 配当金/株価)が 0〜1% と低くなっています.会社が 100 億円分の株式を持っていても,そこから 1 億円の配当金が支払われればいい方なのです.バブル景気全盛の頃のように本業が好調なら,そこから上がる利益で配当利回りの低さもカバーできたでしょう.
    ところが,バブル崩壊後はそうは行かなくなりました.業績の悪化で持合い株式の資産効率の悪さが顕在化したのです.いっそのこと,市場で現金化して,高金利の借入金の返済に回したりした方がマシです.自社株買入消却という手もあります.そうすれば,利益水準を落とさずに(あるいは利益水準をむしろ上げながら)資産を圧縮することが可能です.結果的に,資産効率が上がることになります.

    資産効率の悪さ

    【持合い株式の株価下落による業績悪化・財務体質悪化】
    平均株価が右肩上がりの時代なら,持合い株式の含み益(= 時価 − 簿価(購入価額))が膨らんで会社の財務体質強化に貢献できたでしょう.含み益のある持合い株式をいったん売って買い戻せば,持合い関係を崩さずに「売却価額 − 簿価(≒ 元々の購入価額)」を利益として計上できるからです.本業が不振のときや特別損失が出たときなどに,その穴埋めとして使えます.
    ところが,バブル崩壊後は,株価が超特急で滑り落ちて低迷続きのため,持合い株式が,含み益どころか,含み損や評価損を出すようになってしまいました.タダでさえ業績不振なところにです.そんなことなら,持合いを解消して株式を売り払い,株価下落の不安から解放され,スッキリした気持ちで本業に専念した方がマシっちゅーもんです.

    株価下落

    【経営の株主重視・資本効率重視への変化】
    経営者の価値観が変化して,経営が米国型の株主重視・資本効率重視(ROE 重視)へ向かう傾向が散見されるようになってきました.理由としては,企業活動・金融の国際化の進展や米国経済の好調があげられます.グローバルスタンダードとしての米国型経営をマネしたいという気にもなります.また,米国を中心とした外国人投資家の株式保有比率が高くなり,外国人投資家の意向を無視できなくなってきたということもあります.最近では,情報通の国内投資家も,株主重視・資本効率重視を意識するようになってきました.これでは,経営者も,投資家のお金を呼び込むために株主重視・資本効率重視を意識せざるを得ません.
    ところで,何故,株主重視が株式持合いを解消させる方向へ向かわせるかといいますと・・・もともと,株式持合いは一般の株主の議決権を無力化することを目的としています.会社同士が互いに安定株主になり過半の株式を持ち合えば,見ず知らずの人に経営権を奪われるようなことはない,という発想です.結果として,一般の株主を軽視して,経営者のための経営を導くことになります.これでは,株主重視に慣れた投資家のお金を呼び込むことが出来ません.例えば,米国のカリファルニア州公務員退職年金基金は,日本株を大量保有していますが,今春,日本企業のガバナンス(統治)指針として,「株式の相互持合いを減らすこと」を掲げたそうです(日本経済新聞 1998.05.11 付).したがって,株式持合いを解消する方向へ向かわざるを得ないのです.

    株主重視

    それから,何故,資本効率重視が株式持合いを解消させるかといいますと・・・典型的な株式持合いは,会社同士が互いに新株を発行して交換するものです.形式的には有償増資(お金の払込みを受けて新株を発行すること)ですが,実質的には株券という紙切れの交換でお金の払込みはありません.すると,資本(株主から預かっているお金)が増大する反面,財政状態は実質的に変わらず,利益増大への貢献が無いので,資本効率(= 利益 / 資本)が悪化します.これでは,資本効率を重視する投資家のお金を呼び込むことが出来ません.したがって,株式持合いを解消する方向へ向かうのです.

    資本効率重視

    最後に一言.・・・まだまだ,株式持合いで自分の身を守ろうとする経営者は多いようです.でも,投資家も馬鹿ではありませんから,経営者が優秀なら,わざわざ追い出すようなことはしないと思うのです.経営者の緊張感を保って経営成績を上昇させるためにも,株式持合いの解消は望まれます.


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