毎週土曜日、山梨県の東南部(郡内と呼ばれる地域)に、6万部配布しているタウン誌「フジマリモ」紙上で「山麓探偵団日誌」として掲載(毎月一回)されたものを、ここで転載してご紹介します。(ロゴ=フジマリモ紙提供)


G 平成12年12月16日号掲載 紅葉の樹海に安らぎ

空気の澄んだ幻想的な朝だった。温かいスープとパンで体が目覚めたところ、今回の団長・伊藤浩美さんのミニレクチャーが始まった。今日の主役はクモ。巣の張り方や狩の仕方など興味深い話を聞き、いよいよ出発。目指すは紅葉の樹海だ。
静かに今日の玉手箱へと進入した一行は、さっそくいろいろな物を発見する。団員の素朴な質問のたびに足を止め親切に説明してくれる団長。そんな光景を何度となく繰り返し、いつの間にか昼食の時間だ。枯葉のじゅうたんを敷き詰めたブナ
林。映画のセットのようなロケーションの中、柔らかな日差しに包まれた至福の一時を過ごす。
立派な『板根』を持ったミズナラの大樹。腰を下ろしたらスッポリ隠れてしまうほどだ。一体どれくらいの年月を経て造りあげたのだろう。団長の勧めでその側に仰向けになってみる。風に揺れる緑や赤の葉と、その合間から見る美しい光景が広がっていた。
どこからともなく漂う甘き香ばしい香り。思わず甘栗やさんを捜してしまうほどだ。それは桂の木の葉と判明。いつしか一枚として同じモノがないことに気付く。一人ひとりの顔や性格が同じではないように一樹一葉同じではない。だからこそ集まるとうまくバランスがとれるのかしら・・・。
そんなことを考えながら複雑にして見事に絡み合った根の間を歩き続ける。乾いた落葉のカサカサという音を聞きながら倒れた大木の下をくぐったり。どんどんと体中の細胞が元気になっていき、気を感じ始める。
どれほど歩いたろうか。気が付くと富士風穴の入り口に到着。リュックを降ろし真っ黒な穴の中へ一人ずつ消えていく。まるで食べられているようだ。中は前後左右上下の感覚を失うほどの闇。氷の上を注意しながら少しずつ奥へと進む。不思議と恐怖感はなく、むしろ母親の胎内にいるような安らぎを感じた。
自然のサイクルからすれば人間の一生なんてほんの一瞬に過ぎない。やれること、出会える人の数は限られている。しかし、だからこそ一秒一日を大切にしたい。言葉では到底説明し切れない程の優しさ、厳しさ、たくましさ、そして寛容さを自然から教えられる。それをどうやって周囲に還元するか、これが課題だある。
(山麓探偵団団員 山中湖村在住 佐藤育美)


F 平成12年11月18日号掲載 自然観察と細密画

深まり行く秋の一日。山中湖の「ガラリエ・オム」のオーナーで細密画家の木村修さんを団長に迎え、『自然観察の視点で細密画を描いてみよう』の集いが開かれました。
場所はパノラマ台の近くの山の斜面。富士山の眺めも素晴らしいススキ野原でした。

そんな枯野の中で見つけたバライチゴの赤い実、リンドウ、フジアザミ、キノコ等。小さな秋を各自思い思いに写生を始めました。地べたに寝そべって目線を下げ、対象をじっくり見つめていると、知らず知らずのうちに身体が花に近づいているのでした。
団長から「花弁をうろついているテントウムシやミツバチも一緒に書き留めたら」とのアドバイスがあったのですが、虫たちの形態がはっきり解らず、描く事が出来ませんでした。写真は夕日を受けて頑張って描いている樋口世話人と仲間たちです。

パノラマ台へ向かう前に『植物の越冬戦略』と題したミニレクチャーが開かれました。常緑樹と落葉樹、広葉樹と針葉樹、一年草と多年草などの冬越しの方法について団長から話しを伺いました。


一部を紹介すると、冬芽の準備は花が終ってすぐに始まるとか、氷点下何十度もの寒さに耐えている樹がたくさんあるとか。自然界の営みのすごさに感嘆し、圧倒されました。

(山麓探偵団団員 鳴沢村在住 加藤 信子)


E 平成12年10月21日号掲載 ブナの悲鳴が聞こえる遊園地も山を荒らす

今回のガイドが元富士山の強力だった人と聞いて、参加してみる気になった。
強力のイメージは新田次郎の「強力伝」などから想像して、たくましくむかつけき男かと思ったら、紹介された白鳥裕之さんは極普通の優しそうな若者だった。
強力は今どき3Kの最たるもの。それをあえて選んだ白鳥さんはそれだけで尊敬に値する。話を聞いてみると、冬季氷雪と強風の中、測候所への荷揚げの厳しさは想像を絶する。数年で腰を痛め、今はYMCAのネイチャープログラム担当。いつも自然とどっぷりでそれが性に合うらしい。

「 この森に未来はあるか 」
団員12名が案内されたところは、富士山南麓西臼塚。その入り口で奇妙なものを見た。大岩をびっしり並べ、丸太の棚をしつこく築いてある。無法なバイクやオフロード車の進入を防ぐナリケードだそうだ。山の中を走りたい気持ちは分からないでもないが、それが如何に山を傷つけるか考えないのだろうか。
山道をゆっくり登っていくと、いろいろな人工物が出てきた。オリエンテーリングの看板やベンチ、果てはアスレチックまで。そこは整備された遊園地だった。こんなものはいらない。これこそ明らかに富士山を荒らしている。
気を取り直してよく見ると、さすが南麓の自然は樹種が豊かだ。サンショウバラ、イタヤカエデ、ウラジロモミジ、ブナ、ミズナラ、ヒメシャラ、サワグルミ、ホオ、マユミ等々。白鳥さんの説明で多くの発見があった。

その中で、動物の巣方に見える奇形ブナが眼を引いた。人間の手で周囲のヤブが切り払われ広場が出来てしまった。子どもがこの木に登って遊ぶらしい。かわいそうに老いたブナの悲鳴が聞こえてくるようだ。
白鳥さんはいいことを言う。「知ることよりも感じること」。木や草の名は知らなくても、山に入ったら黙って五感を動かすことだ。そうすれば自然の営みの何かを感じ取り、自然の一部としての人間のあるべき姿に気が付くはずだ。
(山麓探偵団団員 山中湖村在住 米山和男)


D 平成12年9月16日号掲載 巨石は何を語るか?石割神社

第6回山麓探偵団の行き先は、山中湖村平野にある石割神社。題して「石割神社周辺のロマン−巨石群は何を語るか?」
そこには神社の御本殿である高さ15mもの巨石が鎮座している。その岩には約60cmのほどの隙間があり、人間が通りぬけられるそうだ。汚れた心の持ち主は絶対に通り抜けられないらしいが・・・。
さて、今回の担当団長は探偵団のお世話役でもある樋口裕峯さん。富士山とそれを囲む自然などに惚れ込み、20数年前に山中湖に移住した。石割神社は格好の遊び場で、お子さんが小さかった時は頻繁に登り「よしっ競争だ!って走り下りてきた」と少々荒っぽい。
登り口は樋口さん宅のすぐ裏。すがすがしい森の中を歩いていく。途中かなり急なところもあり冷や汗をかいたが、時折木々の間から覗く眺望は、それまでの疲労感を癒してくれた。
「もうすぐよ」とすれ違う人の声に。フッと視線を上げた。そこには黄色や白、ピンクなど色とりどりの花々が!!。ひとつひとつは小さく華やかさこそないけれど、そこに根を張りしっかりと生きている。人の手など借りずとも、それぞれの花は自分が一番美しく、元気に咲いていられる場所を知っているようだ。「これ、これだよ」。可憐なお花畑で、作業姿の団長が無邪気にはしゃいでいたのが、何とも印象的。
「これかぁ」。デーンと構える巨石を目の前に、ため息混じりの第一声である。近づいて観察開始。例の岩の隙間にも恐る恐る足を踏み入れた。通り抜けられそうでホッとしているところに「この造りどうなっていると思う?」と団長。名探偵よろしく、五感をフル稼動させ調査した。
その結果、「もともと一つの大きな岩が何らかの衝撃を受け、ここで割れてそれがドンっと下にずれ落ちてこうなって・・・」「でも下には別の岩があるからずれ落ちるって事はないよ」「・・・」無駄な推理は終わりにし、古の人々が ” 神 ” とあがめたこの巨石を目の前に、ちょっとした時間旅行を楽しむことにした。
それにしても、見れば見るほど謎は深まる。きっと正式な調査を行えば謎は解けるであろう。でも、知りたくないような気もする。全てを知ることより、知らないでいる方が幸せで楽しいこともあると思うから。
団長宅へたどり着いたときには、秋を思わせるような涼しい風が吹いていた。程よい気だるさに包まれた体を椅子に投げ出して飲むビールがどんなにうまかったことか。もちろん、これも山登りの楽しみのひとつであることはいうまでもない。
(山麓探偵団団員 鳴沢村在住 梶原園子)


C 平成12年 7月17日 掲載 富士山に現れる幻の滝

富士山に現れる幻の滝の存在は最近では良く知られるようになりました。山頂付近の雪が溶け、岩盤が露出している沢を川のように流れ落ち、崖のところで滝となって下いく。しかも、日差しのある天気の良い暖かな日でないとお目にかかることができない。そんな条件を満たしてやっと出現する、それが幻の滝なのです。
梅雨入り間もない6月10日。天気は曇り。現地は濃い霧がかかり視界も悪く沢の場所さへうまく確認できません。水が流れていればその音を頼りにもできるのに、その音すら聞こえてこない。案の定、沢にたどり着くと水は全くないただの枯れ沢。
水は、2日前の下見の時には隆々と威勢良く流れ落ちる滝を見ているだけに、担当団長は茫然自失。付近に水がないかウロウロする有様。見かねた団員が優しく声を掛けてくれるも耳に入らず、そのうちに諦めて一同昼食をとることにした。さすがにこの天候では滝に出合えるすべもなく気温13度のなか、天候の回復に期待するだけでした。
霧に中、山頂方面から水の流れるような音らしきものが聞こえだしたのは、弁当を食べ終えたころ。
八合目付近は陽が射していたらしく、しばらくすると細い筋となって水が流れ落ちてくるのが確認できたのです。流れ始めに遭遇し、しかも一段一段下り、滝になっていく様子をつぶさに観察できたことは、単なる滝を見るよりも感動的でした。
これは偶然の出合いです。自然の中には、そこに人がいるいないに関らず、さまざまな事が起きている。この事を改めて感じる出来事であったし、そこに居合わせることができたことで身近な自然の再発見の面白さ、奥深さの一つを体験できたのではないかと思います。
また、自然のそんな一瞬の表情を見て参加者は驚き、何かを感じ取ったようでした。
その感動が自然に対する畏敬の念となって心に残り、自然とのつきあいを考えるときの一助となればと願っています。

( 山麓探偵団6月担当団長 伊藤 浩美 ・ 山中湖村在住 )


B 平成12年6月17日 掲載 虫の目になって観察
長く根雪に閉ざされた白銀の世界が終るのを待ちかねたように、いっせいに芽吹き始めた緑や咲き競う色とりどりの花たち。それをあえて観察し、描写するというテーマに誘われて森の喫茶室あみんに到着。
この日の団長である木村修氏が紹介され、静かに、そして熱のこもった講義が始まりまして。一時間半ほどの講義の後、団長のアトリエ兼ギャラリー「ガラリエ・オム」の周辺からパノラマ台へ通じる山道などを歩きながら、野に咲く花々の説明を受け、午後はそれらの花をもう一度よく観察しながら、初めての「細密画」に挑戦。細密画とは単なる写生と違い、花びらの中にある細かい筋に至るまでを拡大ルーペを近づけて、まるで自分が虫になって花の中に入り込んだかのように観察して正確に描くものだと知りました。
このとき始めて朝の講義がなぜ植物の観察方法にとどまらず、その系統や歴史にまで及んだのかを納得したのです。植物を生物学的に理解し、自然に対する確固たる認識を持って初めて細密画というものが描けるのだと教えられました。
この日の講義と観察を通じて「自然環境を守る」「自然を大切にする」という発想は、人間が他の生物を守ってやるという上段に立った思想に転じる恐れがあり、本来は人間も自然の一部であり、自然と共にしか生きられない存在であるという謙虚な気持ちにならなくてはいけないこと、さらには。団長曰く、「自分が人間であることを忘れて自然の中に溶け込む」ことの大切さを身をもって感じました。
最後に木村団長の忘れがたい言葉―「このまま自然破壊が進めば人類はほろんでしまうが、みんながほんの少しずつ自然に対する観察と理解を深めていけば、まだ存在できる可能性はある。」
この日が結婚記念日だった私たちとって、この言葉は最高のプレゼントでした。
(山麓探偵団員 山中湖村在住 文=西山 寛 ・イラスト=西山 真知子)

A 平成12年5月20日 掲載

富士山の裾野に広がる偉大なる自然や文化を、文字通り探索し、体験し、そこから何かを学んでいこうではないかと結成された『山麓探偵団』。第一回目の「樹海探査」に続き、第二回目となる「富士のグランドキャニオン眺望」が4月8日。決行された。
ハイキング気分(!?)で現れた団員たちを、今回待ち受けているモノとは・・・。

山麓探偵団第二回目の実地踏査は、皆の期待と楽しみを集めて出発しました。
が、スコリア(火山礫)の道は険しくまた遠く、残雪で滑ったり転んだり。それでも皆「グランドキャニオン、グランドキャニオン」を合い言葉に頑張りました。
そして遂に、富士山の中にこんな風景が隠されていたのか、と、その大きく迫り来る断崖を目にしたときは、「このすばらしい自然の造形物をいつまでも守っていけたらいいね」と、皆心に誓いました。
(山麓探偵団員・飛鳥井 恵 ・・・山中湖村在住)


@ 平成12年4月15日 掲載 自然と歴史の人材再発見

「昔はあのフジヤマの上半分を切って駿河湾に転がしたかった。今じゃ富士山のおかげで外車に乗ったりゴルフたたきができる時代になった」
24年前の初冬家族共々東京から山中湖畔に引っ越してきた時にきいた、今はなき古老の話である。
昭和の30年代まで米が作れなかったこの地区の「富士山颪」への恨みでもあり、その苦労の歴史を忘れてしまったように観光業に夢中の次世代への苦言でもあった。
そのような賑わいだ時代も過ぎ、その時の古老の憂いが現実のものとして、新しい観光のあり方や、生き方が問われる時代となった。開発の爪痕はいたるところに残り、観光客誘致の施設は財政赤字として住民に重く圧しかかっている。
考えてみると山麓の大きな財産は、富士山であり、澄める湖であり、緑豊かな自然環境であることはいうまでもない。
この富士山麓の自然と歴史と人材の再発見、再発掘をしようと「山麓探偵団」を昨年の暮結成した。友人のペンションのオーナー達にも声をかけ、「まずそれぞれが楽しもう!発見しよう!それをお客様に発信していこう!」を合い言葉に、新しい山麓観光のあり方を模索することにした。
3月11日(土) の第一回実地踏査は「未知なる樹海を探索しよう」をテーマに19名の参加者を得た(登録団員は現在25名)。

毎回担当団長を個別に予定しており、今回は6年前より山中湖村に移り住んでいる、ネイチャーフォトグラファーの伊藤浩美氏(団員)にお願いした。
伊藤さんは、「生きもの地球紀行」、「動物わくわくランド」などの撮影や、自然をテーマとした教育フィルムを数多く撮影担当された経歴があり、動植物の生態に関しても研究者が一目おくほどの博学博識の持ち主である。富士山周辺の動植物のフィルムも多く、特に樹海の植物空間を一年間通してまとめたビデオフィルムは、最も貴重な記録である。(探偵団収蔵)

毎回担当団長を個別に予定しており、今回は6年前より山中湖村に移り住んでいる、ネイチャーフォトグラファーの伊藤浩美氏(団員)にお願いした。
伊藤さんは、「生きもの地球紀行」、「動物わくわくランド」などの撮影や、自然をテーマとした教育フィルムを数多く撮影担当された経歴があり、動植物の生態に関しても研究者が一目おくほどの博学博識の持ち主である。富士山周辺の動植物のフィルムも多く、特に樹海の植物空間を一年間通してまとめたビデオフィルムは、最も貴重な記録である。(探偵団収蔵)
「富士山は想像以上に環境破壊されています。乱開発やゴミ問題で世界遺産に登録できなかった。せめて樹海だけでも真剣に守っていきたい」との伊藤さんの気持ちは、従来の樹海認識を一変させられた参加者にも十分に理解できたものと思う。エコツアーと称した観光化が危惧される樹海の今後に対し、伊藤さんのような地道な活動は、まさになくてはなならい"山麓の人財"である。
樋口 裕峯(山中湖、森の喫茶室あみんオーナー・山麓探偵団お世話役)


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